光の魔術師フェルメール

 ちょうど締め切りの谷間になりまして、行くなら今しかないと東京都美術館フェルメール展に行ってきました。そもそもフェルメールの絵が海を渡ること自体珍しいのですが、彼の絵が7点も揃うとなると見に行かない手はありません。
 彼の絵一枚でミステリーが書けるくらい謎に満ちたフェルメールですが、よく言われることのひとつに「ものすごくリアルに描かれているけど、実際にはこんな風に見えることはない」というのがあります。「牛乳を注ぐ女」とかが有名ですね。
 フェルメール展に展示された、フェルメールを含む17世紀オランダの画家たちの絵を見ていますと、こうした描写はある意味この時代の流行であったように思います。たとえばヘラルド・ハウクヘーストの「デルフト新教会の回廊」も、現実にはあり得ない角度・視点から再構成されたものです。
 やはり当時の流行であった「カメラ・オブスクラ」による映像が彼らの画風に影響を与えたと言われていますが、彼らの天才性がどこにあったかと言えば、その技術もさることながら、そうした「まだこの世に現れたことのない風景」を頭の中で想像し、改変し、再構成する能力ではなかったかと思います。
 現実から少しはみ出たところにこの上ないリアルを感じる時、人間は「畏怖」という感覚を覚えるのだと再認識させられた展覧会でした。