狐狸狐狸(陸)

 父の通夜の日のことである。
 わずかな身内だけの通夜とはいえ、それなりに準備もあり、慌ただしくしていた昼下がりのこと、インターホンが鳴って来客を告げた。
 姉が出たところ、誰もいない。
 誰ぞいたずらでもしたのかと準備に戻ると、再びインターホンが鳴る。
 再び出てみても、誰もいない。
 田畑に囲まれた田舎町のことである。いたずらをするような子供がいれば、どの家の子かしれようというものだが、母にも叔母にも心当たりはなさそうであった。
 いったい何事かと一同首をひねっていると、母が仏間で寝ている父に声をかけた。
「ちょっとお父さん、いたずらしないで」


 その後、インターホンが鳴ることはなかった。