狐狸狐狸(伍)

 僕の仕事場は建て付けの悪い扉があり、ひとりでに開いたり閉まったりしてしまう。それ自体は別に説明のつかないことではないのだが、気味の悪いことでもあるので、僕はそれを「座敷童」のせいにしている。
 その日、我が家の座敷童は朝から活発に活動し、件の扉を何度も開け閉めした。あまりにも続くので、これは何かの兆しだろうかと訝しんだりもしたが、仕事の忙しさに紛れて忘れてしまった。
 二日後の早朝、疲労困憊して倒れていた僕の家の電話が鳴った。
 僕のような仕事の人間にとって、早朝の電話は十中八九、訃報である。
 僕は電話に出なかった。
 僕の回りで、心当たりのある者はひとり――いや一匹しかいない。
 なるほど、二日前のアレは確かに虫の知らせだったのだ。仕事で身動きの取れない僕のところに、彼女は律儀にも、「もう行くよ」と知らせに来たのである。
 その翌朝、僕は彼女の夢を見た。
 享年24歳。捨て猫として世に出で、飼い猫として自分の子よりも長生きしてしまったのは不本意かもしれないが、まずまず幸福な一生だったのではないか。そう信じたい。
 さらば、友よ。