柄刀一

 いわゆる「新本格」ブームの後、しばらく僕はライトノベルやマンガばかり読んでいた時期がありまして、どうにも「当たり」に巡り会えずにいました。
「こりゃいかん」とか思いつつ、しかしハードSFを読み始める訳でもなく、友人からは「歴史書を読みなさい」と言われて「お説ごもっとも」と承りながらも借りた本を積み上げたまま本屋に行き、結局手ぶらで帰ってくる始末。
 そんな中、ふと手に取った柄刀一の「ifの迷宮」が佳作でして、「ああ、そーいや僕はミステリ者だったっけ」と自分のアイデンティティを取り戻した訳です。
 元々ノベルズの棚に並んでいた「天地龍之介」シリーズが緒方剛志氏のイラストでして、新刊が出る都度興味を引かれながらも結局手に取らずにいたりしました。ある時僕の中で何かがスレッショルドを超え、まずは一作と「ifの迷宮」(思えばどうしてそーゆー時にデビュー作から手に取らなかいのか僕は(笑))を買ってみた次第。
 その後読み終えるまでがまた長かったりしましたが(一度積ん読にしてしまうとなかなか読み始められないのよね)、めでたく「作家買い」の1人としてリストアップされるに至りました。
 基本線は「丁寧なリサーチと考察に支えられたうんちくがたっぷり」のミステリです。後ほどまたネタにしますが、アーロン・エルキンズや森博嗣のうんちくに惹かれる人はわりといけるんじゃないかな。
 ところでその「ifの迷宮」なんですが実は今から10年後の話なので微妙にSFだったりします。思うに、この人にはわりとそーゆー話が合っているのではなかろーか。「天地龍之介」シリーズの主人公とヒロインがべたべたで全然くっつかないあたりとか古き良き時代の徳間ノベルズやカッパノベルズを彷彿とさせます。


 ――ああ、そうか。とどのつまり、僕は自分が「本読み」に嵌った最初の事件現場に戻ってきた訳だ。